ひとは花にもにたるかな。才となさけは花の香よ。花のひらきて香ぐわしく、花おちるときは香もむなし。花おち土にかえれども、なおきえやらぬ花の業。香はむなしくもほろぶれど、なおとどまりし香の性。今さく花はいにしえの、花の魄ぞよ今の香は、いにしえの香の魂なれや。

_武田泰淳「才子佳人」