「誰でも、フェンリルだよ」

わたしのフェンリルは、はるかに残虐なフェンリル━━群れなのか、輪郭も定かではないほどの巨獣なのか━━の中に溶け消えてしまった。

外にも自分の中にも醜が在るけれど、あの存在の中で生きているのだと思うと、耐えられる。

_皆川博子「風配図」